操作された疑惑の幸福度ナンバーワン

 

我々日本人にとって幸福度指数というワードを聞いて、イメージする国はどこだろう?メディアの影響が色濃いのか、僕の周りでも『ブータン』という国名を挙げる人が異様に多い。

だが、『ブータン』の国状について知っている者であれば、『ブータン』という国家が本当に幸福度ナンバーワンに相当するのかということに大いに疑問を感じるだろう。実際に『ブータン』は北部では未だに大量虐殺が続く北朝鮮にも似た独裁国でもある。

最後にブータンが幸福度指数で世界一になったのはいつのことだろう?そう思ってネットを検索すると愕然とするだろう。実は『ブータン』が幸福度指数を毎年発表している調査会社(レジェマーケティング社、ギャロップ社)の発表する幸福度指数の上位にランキングしたことは、ただの一度もないのだ。ちなみに最新(2018年度発表)のナンバーワンは『フィジー』である。

幸福度ランキングで最も有名なものは、世界各国でアンケート調査を行なっているレジェマーケティング社とギャロップ社発表のものだ。この2つの調査会社が発表するものは、主観的な幸せを10つの因子に因数分解してアンケート形式で各国の住民に質問したものを集計したもので、一般に幸福度ランキングというとこの2つのいずれか1つを指す。

もう1つ、国連が発表しているものがあるが、こちらは独自の変数(パラメーター)を足して分析したもので、ギャロップ社のデータをデータベースにしているにも関わらず、なぜか北欧の国が上位にランキングされているのが特徴である。きっとこれは、高齢者への福祉、教育インフラなどを重視したパラメーターが多いためだろう。

しかし、それらのどの調査結果からも、ブータンの幸福度が高いとは言えないのだ。

現在、レジェマーケティング社、ギャロップ社発表の幸福度ナンバーワンのフィジーと、国連発表のナンバーワンであるデンマークを比較しても、かなり違うタイプの幸福な国と言える。実際にアンケートで自分が幸福であると回答したフィジーは、決してインフラなどが整備されているとは言えないが、それでも自分が幸福だと感じている人が多いようだ。主観的アンケートの結果だけを見るのであれば、フィジーは幸福な人が多い国、デンマークはフィジーほど幸福に感じている人はいないものの、高齢者への福祉、教育インフラなどを考慮すると、とても住み易い(幸福というよりも)と言えるのだ。

では、どうしてブータンは、我々日本人に「ブータン=幸福」というイメージを刷り込んだのだろうか?

ブータンは1971年に先代の国王が即位すると翌年、事実上の鎖国政策への国民総幸福量という面白い政策を発表した。信じられないことではあるが、我々は未だに50年も昔に発表されたブータンのイメージを見ているのだ。

実際のブータンは、ネパール系ブータン人の迫害、北部での毛沢東主義者の虐殺など、我々の目には触れないところで、国民総幸福量という政策とは裏腹な現実に直面している。

心理学者のアブラハム・マズローのマズローの段階的欲求の第一段目、第二段目である「生理的欲求」「安全欲求」を満たせない国が幸福を語ることはおかしなことだ。それらが満たせて初めて、人間は社会的欲求・所属欲求、承認欲求、自己実現欲求とつながるのだから。

ただ、我々日本人は『成功』について語ることは多いものの、『幸福』について友人と語らうことは稀だろう。

ここで幸福度ナンバーワンのフィジーを例に『幸福』を考えてみよう。

フィジーの人たちは、前述のマズローの段階的欲求の第1段目、第2段目である「生理的欲求」「安全欲求」を十分に満たせていると言える。国際警察機構が発表する治安係数においても、フィジーは治安の良い我が国よりも治安係数が低い(低い方が治安が良い)亜熱帯気候で人口が国土面責に比べて小さいため、あくせく働かなくても食べることに困ることはない。

では、第3段目の社会的欲求・所属と愛の欲求ではどうだろうか?

フィジーという国は住んでみるとよくわかるというのはおろか、旅行で行ってもよくわかるレベルで人と人の絆が強い。僕が初めてフィジーに旅行に訪れた際は、1週間の旅行であったにもかかわらず、多くの何の縁もなかったフィジーの人に食事をご馳走になり、思い起こせば自前で食事をしたのはたったの2回だけであった。帰りの飛行機の中で、顔の筋肉痛に気が付いたくらいだ。笑いすぎて痛くなったのだ。僕はそれが気に入って、フィジーで起業し、それが昨年証券市場に株式上場した。

旅行者の所属と愛の欲求ですら満たしてくれるホスピタリティー豊かな愛の国でもある。

では、第4段目の承認欲求、第5段目の自己実現欲求はどうだろうか?

不思議なことに、フィジーの人たちには、この2つの欲求はほとんどないと言える。他の国の人たちと比べると、あまりに所属と愛の欲求が強いため、残りの2段の欲求(第4段目の承認欲求、第5段目の自己実現欲求)が霞んでしまうほどに小さいのだ。

フィジー人たちからはとても学ぶことが多い。僕は英語が公用語として話されているフィジーでもう20年も日本人や韓国人・ロシア人の学生が英語を学ぶ語学学校を経営しているが、学生たちは英語だけでなく、『幸福』を発展途上国であるフィジーから学ぶのだ。

そう考えると、疑惑の幸福度ナンバーワンのブータンからも留学生が来るようになれば嬉しい。

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Free Bird Institute
CEO 谷口 浩
中国上海市の同済大学応用物理学部中退。ヨーロッパ・アジア諸国を放浪後、南太平洋のフィジー共和国で深刻化する少子化によって目立つようになった公立学校の空き教室・空き校舎を政府から安く借り受け、語学学校Free Bird Instituteを設立。独自の経営手腕でFBIを世界で2番目に大きな語学学校に育て17年に株式会社としてフィジー南太平洋証券取引所に上場させる。その実績がフィジー政府に買われ09年よりフィジー共和国の国立高校Ba Provincial Secondaryの理事長に就任。学校の再生に尽力する。著作に『FREE BIRD 自由と孤独』(中央公論新社)。『タニグチ式望遠鏡』の発明など光学研究でも高く評価されている。